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蒲田にある泡泡洗体リラクゼーション、夢のまた夢の訪問レポートである。
夢のまた夢と言うネーミングがマッサージ店に相応しいかどうかにとても疑問を感じる。私はこの店名を目にした時に既視感のような物を感じた、さてそれは何故だろうと考えてみた所、思いのほか早くにその答えは見つかった。なんの事は無い、桃鉄のカードに同様のネーミングの物があったのだ。
ちなみに桃鉄において夢のまた夢カードと言うのはぶっとびカードの進化系のような効果が有り、ぶっとんだ場所が気に入らなかった場合に一度だけやり直しが出来ると言う効果がある。もしかしたらこのお店も嬢が気に入らなければ一度だけ施術中でもチェンジが出来るなんてサービスがあるんじゃないかと妄想したが、間違ってもそんなサービスは実際には無いだろう。
いや、気の強い人だったらどんなお店でも施術してる嬢が気に入らなければママを呼んで小言の1つも交えつつ「他の子にして」と言うのかもしれないが、混雑している男子トイレで後ろに人の気配がすると全く出なくなってしまうような小心者の私には例え「気に入らなければ遠慮なくチェンジと言ってくださいね」なんて宣言されたとしても恐らく実際にそれを使う事は出来ないのだが。
この日私は特に行きたいお店も無くどうしようかと訪問店を決めあぐねていた。こういう気分の時に私は蒲田に行く事が多い、居酒屋の最初の一杯はとりあえず生と言う方も多いだろうし、お酒が余り好きでは無い私ですら周りがそんな空気になれば合わせて私も生でと合わせる。そんな空気を読んだ対応を蒲田のエステに求めているのかもしれない。
こちらのお店を選んだきっかけはやはり店名だった、ありきたりな店名よりも目を惹く所から考えるとこのミスマッチな店名は集客と言う意味では逆にマッチしている。いや、少なくとも私にはマッチしたと言う方が正確だろうか?マンション店と言う事で店に電話をするのが嫌いな私も仕方なく電話をして店の場所を聞く、幸い日本語がそれなりに出来る方だったので迷わず現地には到着出来た、昔電話応対の子が余りにもカタコト過ぎて駅から直ぐのマンションだったと言うのにしばらくうろうろするハメになった経験がある私には「道案内が判りやすい」これだけでも有り難く感じる。
マンションに入り、目的の部屋にたどり着きチャイムを鳴らすと、どことなく昭和っぽい雰囲気の女性に出迎えられた。決してブスでは無いのだが何故かレトロな香りが彼女には漂っている、それはリバイバルブームだとかでわざと現代でレトロな出で立ちをしているのとは異なり、大掃除をしていたら押入れの奥から昔使ってきた扇風機を発見した時のような感じの古さである。
ただし彼女自体が物凄く古いわけでは無い、少なくとも私の見立てではどんなに熟していたとしても40には届いていないだろう。
そんな彼女に手を引かれ、室内へと入る。室内は残念ながらと言うか安心したと言うべきか、普通に小奇麗で昭和っぽさは欠片も無い、メニューを見せられ訪問前から決めていた洗体無しコースの90分を選択、洗体を薦めて来るかと思ったがすんなりとオーダーは通る。マンション店で洗体をして貰っても単に立って適当に洗われるか、部屋にシートを敷いて泡を伸ばされるだけである、洗体ルームがあるような店ならまだしもそんな施術で時間をロスしたくないと言うのが私の本音なのだ。
マッサージはそれなりで100点満点なら65点辺りと言った所、ちなみに私の中学生の頃の英語の成績が大体そんな物だった。今でも英語は得意では無い、と言うかそもそも英語を話す機会はほぼ無いし、それ以外の言語についてもせいぜい中国エステで「うぉーあいにー」と言う位の使用頻度、きっと一生多言語を習得する事は無く私はまた土へと還る人生をこの先歩むのだとうと考えると少し悲しくなるが、それでも英語を本格的に勉強しようとは思わないのが私のダメな所なのかもしれない。
うつ伏せになっていると彼女のビジュアルは当然見えないのだから彼女の昭和なビジュアルを目にする事は無い、そして彼女の声質はハスキーボイスのような系統では無かったので顔を見なければイマドキの可愛い女の子と話しているような気分になれる、そもそも彼女の歳を私は知らないが多分実際にイマドキの子ではあるのだろう。
昭和感も薄れてきた頃に仰向けの声が掛かる、そして仰向けになり久しぶりに彼女の顔を見た私はタイムリープしたような気分になった。やはり彼女のビジュアルにはレトロモダンが溢れていた。
彼女と一緒にざんぎり頭で牛鍋をつついてみるなんてのも良いな、いやそれは昭和じゃなくて明治だ、等とくだらない事を考えつつ徐々に怪しげな手つきへと変わる彼女の施術に身を任せた。仰向けになったのを良い事に彼女はもしかしたら腋毛を処理していないんじゃないかと淡い期待を寄せながら目をやったが残念、そこはしっかりと処理されていた。むしろ彼女のビジュアルだったらうちの実家の庭のように草が生い茂っていた方が私は興奮したのだがやはり彼女も平成に生きる民だったのである。
中国エステの女の子で腋毛を生やしっぱなしな子は意外なほどに多い、中国も地域によっては腋毛を剃ると言う文化が根付いていないのかもしれない、客商売でさらにスリップを着ていると言うのに生やしっぱなしなんてのは日本人ではなかなか見られない光景なのだが、大体の嬢の場合それは一部のフェティッシュな嗜好を持つ客を喜ばせる為に生やしているのでは無く単に剃る習慣が無いかそもそもズボラなだけである。
顔は昭和だが腋は平成な彼女、恥じらいと貞淑に関してはどちらかと言うと昭和寄りで寛容さは余り無かった。こういう時に「ツギキタトキネ」と言う良く判らない断り方をされると「今日をがんばった者にのみ、明日が来るんだよ」と、カイジに出てくる大月のような反論を心の中でしている私だが、彼女はそんな一言を言わなかった。
蒲田にしては味気なくそちらは終了してしまい、私は心も体も中途半端に満たされ店を後にした。先日サッポロ一番の塩味を作ろうとしたら卵が無いのに気づき、仕方なくネギだけを入れて食べた時に似たような気分になったのを思い出した。一応スッキリしてしまったのではしごする気力もすぐには沸かず、しかし脳は全く満足していない困った状態に陥ってしまった。
蒲田なら寛容な嬢が多いと言う昔から漠然と蒲田に対して抱いていたイメージこそが、この店の名前と同じく「夢のまた夢」だったのかもしれない。